混同されがちな、せん妄と不穏について今回はその違いや診断基準を説明していきます。
1.せん妄とは?

厚生労働省の報告書1では、『せん妄とは身体疾患や医薬品、物質中毒・離脱などにより惹起され、他の神経認知障害では説明できない、急性に発症する注意・意識・認知の障害である』と書かれています。つまり、せん妄とは意識の障害です。せん妄はなかなか発見しづらく、医療従事者は患者の2-5割程度しか症状を認識していないことが報告されています2。
またせん妄を発症すると、入院期間や医療費が増加することが報告されており、さらには長期的な死亡率の上昇や認知機能の低下とも関連しているといわれています3。
2. 診断基準

せん妄を診断するための基準としては、アメリカ精神医学会が提唱するDSM-5が使用されており、さらに過活動型せん妄、低活動型せん妄、混合型の3つに分類されています4。そして、過活動型と低活動型を判断する指標に不穏があります5。
3.せん妄と不穏の違いとは?

前述で、せん妄の症状のひとつとして不穏があることを説明しました。不穏とは、過剰な動きや行動の増加した状態であり、落ち着きがなくなったり、叫んで暴れたりする状態のことを指しています。不穏は様々な身体的・精神的な苦痛によって起こるとされており、せん妄も原因の一つになる可能性があります。つまり不穏は行動の状態を、せん妄は意識障害のある疾患という違いがあります。
不穏:行動が増加した状態
せん妄:急性の意識・認知機能障害を呈する状態につけられた診断名
今回の記事では、混同されがちなせん妄と不穏との違いについて説明しました。さらに、どんな方がせん妄や不穏になりやすいのか、その対応についてはこちら(下記)に説明していますので、ぜひ確認してみてください。
参考文献
1 American Psychiatric Association (2013) Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth edition (DSM-5). American Psychiatric Publication, Washington, D.C. (日本精神神経学会監修 (2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院, 東京)
2 Marcantonio, Edward R. “Postoperative delirium: a 76-year-old woman with delirium following surgery.” Jama 308.1 (2012): 73-81.
3 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル (令和3年10 月15日 第13回重篤副作用総合対策検討会)
4 日本精神神経学会 日本語版用語 監修, 高橋三郎, 大野裕 監訳. DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル. 東京, 医学書院, 2014
5 Meagher, David, et al. “A new data-based motor subtype schema for delirium.” The Journal of neuropsychiatry and clinical neurosciences 20.2 (2008): 185-193.