教科書には「糖尿病患者への食事指導は〇〇」と書いてあるけれど、実際の現場では教科書通りにはうまくいかない現実もあります。私は在宅看護実習で、糖尿病と診断を受けたけれど、食生活が改善できず、食事指導が思うように進められなかった経験があります。今、訪問看護師として当時を振り返ると、指導する側の理想と患者さんの生活習慣や食への思いとのギャップをひしひしと感じます。その経験から、患者さんの思いや生活背景に寄り添う姿勢が私の看護の軸になりました。この記事では、糖尿病患者さんの食事指導で、患者さんの思いや生活背景に目を向ける大切さについて、私の経験を通してお伝えします。
患者背景と実習場面

私は学生時代の在宅看護の実習で、糖尿病患者の方を受け持ちました。その患者さんは、血液検査で糖尿病と診断を受け、訪問看護の介入が始まったばかりでした。患者さんの状態としては次の通りです。
・血液検査にてHbA1c:8.5mg/dl
・元々甘いものを好んで食べていた
・独居で食事管理に関する他者の介入がない
私は真っ先に指導計画として「甘いものの制限」を挙げました。そして「糖尿病が進行しないためにも食事制限をしなければなりません。まず甘いものをやめましょう。」と指導。患者さんはその場では笑いながら「はい、はい」と言ったものの、翌日訪問するとテーブルの上にチョコレートの食べかすがたくさん……。私は前日に伝えたことを再度伝えました。しかし患者さんは「もう歳なのにあれダメこれダメと言われたら生きてる楽しみも意味も感じられない」と急に顔色を変えて話されました。患者さんのその反応をみて、患者さんの気持ちを考えず一方的に、こちらの看護を押し付けているだけだったと反省しました。
振り返り ― 今ならどうするか

当時の私は、何か形のある看護をするのが看護師の役目だと思い込んでいました。故に、食事指導=甘いものをやめる指導が役割だと勘違いしていたのです。しかしこの患者さんに大切だったのは、好きな食べ物の禁止ではありませんでした。「糖尿病と診断されどのように感じているか」「食生活をどのように楽しんでいきたいか」「生活の中で心配事は何か」など、気持ちの傾聴だったのです。
一方的な看護の押し付けではなく、患者さんの気持ちを傾聴し、思いに沿った提案を考えるのが大切だと今、改めて感じます。
たとえば「無理に我慢するより、食べる量や時間を工夫してみるのはどうでしょう?」や甘いものを食べたいときに、少し別の食べ物にかえてみるのはどうでしょう?」などの声掛けができればよかったのではないかと思います。
学びとまとめ

正しい知識を伝えることだけが私たちの役割ではありません。患者さん一人ひとりの生活背景や思いに沿った情報の提案が必要です。そのためにも傾聴とコミュニケーションによる関係構築が重要です。この経験を通じて、看護は患者さんの”できない”を責めるのではなく”どうすればできるか”を一緒に考え、望む”生き方”を支える役割だと感じました。



