医療・介護現場で深刻化するカスタマーハラスメント(カスハラ)。被害率は約4割に上ります。安心して働ける環境をつくるために、医療機関・介護施設が取り組むべき具体的な防止策と体制づくりについて解説します。
1. 被害率3割以上――医療・介護現場で広がるカスハラの実態

「カスハラ(カスタマーハラスメント)」という言葉を、最近耳にするようになった方も多いのではないでしょうか。小売業や飲食業などさまざまな業界で問題となっているカスハラですが、医療・介護現場でも深刻化しています。患者さんやそのご家族から、医療・介護職に向けられる暴言や暴力、理不尽な要求などの迷惑行為も、カスハラの一つです。
近年の調査では、直近2~3年以内に被害を受けたと答えた医療・福祉職はおよそ3~4割。特に、介護士やヘルパーなど福祉系の専門職では34.5%、医師や看護師を含む医療系専門職でも28.9%と、決して少なくない方が被害を経験しています。
(参照)1パーソル総合研究所(2024)「カスタマーハラスメントに関する定量調査」
内容もさまざまで、暴言や威圧的な態度、身体的な暴力、支払い拒否、セクハラや差別的な発言、さらにはSNSでの誹謗中傷など、深刻なケースも少なくありません。
医師には「応召義務」があるため「どんな状況でも診療を断ってはいけない」と思い込む方もいるかもしれません。しかし、2019年に厚生労働省から条件付きで診療拒否を認める通知が出されています。診療と関係のない迷惑行為や暴言が繰り返され「信頼関係が築けない」と判断された場合には、新たな診療を行わないことが正当とされる場合もあるのです。
組織としてハラスメントを防ぐ仕組みづくりが、現場で働く職員を守る第一歩となります。
2 . 組織が構築すべきカスハラ対策体制

安心して働ける現場をつくるには、組織全体での取り組みが不可欠です。以下に対策をまとめました。
■ 方針の明文化と周知
まず大切なのは、「カスハラは許容しません」という姿勢をしっかりと示すこと。院内掲示やパンフレット、ポスターなどを活用して、患者さんやご家族に周知しておくことで、未然に防ぐ効果も期待できます。一部の医療機関では「カスハラ対応方針」を公開し、患者さんにも周知する取り組みを始めています。
■ 対応マニュアルの整備
トラブルが起きたとき、どう動けばいいかをあらかじめ整理しておくことは、職員の安心につながります。対応マニュアルには、よくある場面ごとの対処法や初期対応のフロー、エスカレートを防ぐための工夫なども盛り込んでおくとよいでしょう。
■ 研修・教育体制の構築
マニュアルだけでなく、ロールプレイなどを通して対応を練習しておくことで、いざというときも落ち着いて動ける自信につながります。定期的な研修を実施し、全職員が適切な対応を身につけられる体制を整えましょう。

■ 複数人対応の体制づくり
カスハラの対応は、決して一人で行うものではありません。対応が必要なときは、必ず複数人で関わる体制を整えておきましょう。管理職への報告ルートや、緊急時の応援体制も明確にしておくことが重要です。
■ メンタルケア・相談窓口の設置
嫌な言葉を受けたり、緊張する場面に立ち会ったあとには、心が疲れてしまうこともあるでしょう。対応後のメンタルケアも重要です。職場に相談窓口やカウンセリング体制があると、それだけでも安心につながります。
■ 外部機関との連携体制
対応が難しいケースは、警察や弁護士など、外部の専門機関と連携する体制を持っておくことも必要です。毅然とした姿勢を示すことが、被害拡大の防止にもつながります。
3. 効果的な実施のためのポイント
厚生労働省では、研修動画やマニュアルなど、現場で役立つ資料を公開しています。
(参照2)厚生労働省「医療現場及び訪問看護における暴力・ハラスメント対策について」
公開されている資料には、どんな行為がカスハラにあたるのか、どう対応すればいいのか、どんな備えが必要かといった具体的なポイントが、わかりやすく整理されています。
これらの資料を活用しながら、自施設の実情に合わせた対策を構築し、定期的に見直しを行うことで、より実効性の高い体制づくりが可能になります。
【まとめ】
・カスハラは医療・介護現場で深刻化する問題で、組織的な対策が急務
・方針の明文化から外部連携まで、体系的な体制づくりが重要
・厚労省資料を活用し、継続的な改善を図ることが効果的