認知症患者の排便ケア-拒否の裏に隠された患者の思いに寄り添う

観察・患者対応
2025.12.22
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学生のころ、在宅の看護実習で体験したことです。私は便秘のある認知症患者さんに浣腸を試みましたが、痛みや不安感からか強く拒否され、苦戦しました。当時の私はケアを順調に進められない自分に苛立ちやケアを受け入れてもらえないことに焦りを感じていました。認知症の患者さんに関わる中で、何が大切なのか、どう患者さんに対応すれば良かったのか、十数年経験を積んだ今ならわかる気がします。今回は「認知症患者さんの排便ケア」についてお話をしましょう。

認知症の80代女性との場面

在宅看護の実習で認知症の80代女性を受け持ちました。その患者さんは、認知症により短期記憶の欠落があり、言葉での意思疎通が少し難しい方でした。何度説明してもなかなか理解してもらえないことがたくさんありました。

慢性的な便秘があり、便がたまると落ち着かず、イライラすることが多く見受けられました。
浣腸や摘便が必要だと判断し、ケアを試みようとしますが、痛みや不安感からか強い拒否がありました。

学生の私は、とにかく排便処置をしなければとの思いで「浣腸をすれば便が出て楽になりますよ」と声をかけましたが、患者さんは身体を固くし、苦虫を潰したような顔で私の手を払いのけました。

当時の私は「便を出すこと=正しいケア」と考えていました。便を出さなければ腸閉塞の危険性も高まります。これ以上不穏が酷くなるのも懸念していました。同時に私は介助がうまくいかないことに焦りと苛立ちを感じていました。

振り返り-今ならこうする

今振り返ると、患者さんは“痛みへの恐怖”や“何をされるのかわからない不安感”の中にいたのかなと思います。

もし今の私なら、まず無理に介助せず穏やかな声掛けでまず安心を感じてもらいます。

・「お腹が楽になりますよ」「大丈夫ですよ」など穏やかな言葉かけを行う

・優しい声のトーンや表情、タッチングで安心感を伝える

など、声かけや表情の観察を通じて安心できる関係をまず作ります。

そのうえで、本人が比較的穏やかに過ごせている時間帯などタイミングを考えたり、肛門周囲を優しくマッサージしてから摘便したり方法を工夫するでしょう。

例えば、あらかじめ腹部マッサージを行って少しでも便を出しやすくしてから摘便を行ったり、手を握って安心感を与えたり、少しずつ準備していく方法もひとつです。

正しい手順よりも、“安心して受け入れられる関係”を作ることが最優先だと学びました。

学びとまとめ

認知症患者の排便ケアでは、「便を出すこと」よりもまずは「人間関係の構築」が重要ではないかと考えます。そして「安心して排便ケアを受けられる環境づくり」も大切です。

拒否の裏には不安や痛みへの恐怖があります。

患者さんの気持ちに寄り添い、本人と一緒に工夫する姿勢こそ、尊厳を守るケアの核心だと思います。

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